大規模修繕の800万円売る前に使うべきか残すべきか
修繕費と売却価格が、同額ではない理由
外壁塗装、屋上防水、共用廊下。見積額は800万円。「直してからなら高く売れます」と言われたとき、最初に確かめるべきは工事価格ではありません。その800万円が、買主の不安をいくら減らすのかです。
SCENE 01
机の上に置かれた800万円の見積書
築25年、12戸の一棟マンション。外壁には細かなひび割れがあり、屋上防水も更新時期を迎えています。売却査定を依頼すると、「修繕してから売る案」と「現況のまま売る案」が出ました。
工事費は、売却価格へそのまま上乗せされるわけではありません。買主は、工事の見た目よりも、今後発生する支出と事故・漏水・入居への影響がどれだけ減ったかを評価します。
劣化診断なしで工事範囲を決めると、必要な箇所が漏れたり、売却価格に反映されにくい部分へ予算を使ったりする可能性があります。
SCENE 02
買主が評価しやすい工事としにくい工事
- 雨漏り・漏水原因の解消
- 外壁の浮きや落下危険箇所への対応
- 屋上・バルコニー防水の適切な更新
- 給排水管の重大不具合への対応
- 工事範囲・保証・写真が明確な修繕
- 好みが分かれる意匠変更
- 買主が再改装する予定の内装
- 原因調査をせず表面だけ整える工事
- 相場以上に高額な設備への交換
- 資料や保証が残らない工事
同じ800万円でも、雨漏りの原因を止め、保証書と施工写真が揃う工事は、買主の予備費を減らせます。一方、外観をきれいにしただけで下地や防水の状態が分からなければ、買主は別に修繕費を見込むことがあります。
SCENE 03
買主は工事費を二重に見積もる
未修繕物件を買う場合、買主は見積書の800万円だけを差し引くとは限りません。調査で見つかっていない追加工事、工事中の空室や賃料減、融資実行後の資金繰り、予備費まで考えます。
反対に、売主が工事を完了しても、買主が自社ルートなら600万円で施工できたと考える場合、800万円全額は評価されません。売主と買主では、同じ工事に置く金額が違うのです。
SCENE 04
選択肢は「全部直す・何もしない」だけではない
工事を完了して売る
不具合の範囲が明確で、工事後の価格上昇が費用と待機期間を上回る場合。
危険箇所だけ直す
落下・漏水など緊急性の高い箇所へ対応し、残りは資料を開示して買主へ引き継ぐ。
現況のまま売る
再生型・建設系の買主が多い、買主側の施工が安い、早期売却を優先する場合。
実務ではPLAN Bが合理的なことも少なくありません。人身事故や被害拡大につながる箇所は放置せず、一方で全面改修は買主の計画に委ねる。その代わり、劣化状況と見積りを隠さず提示します。
LAST SCENE
工事を発注する前に5つの資料を揃える
- 01専門家による劣化状況・原因の調査
- 02工事項目ごとの見積書と数量
- 03過去の修繕履歴・請求書・保証書
- 04漏水、ひび割れ、浮き等の写真
- 05現況・部分修繕後・全面修繕後の3査定
この5つがあれば、買主は不明なリスクを大きめに見積もらずに済みます。工事そのものだけでなく、建物の状態を説明できることが価格を守ります。
建物の劣化や安全性は、現地を確認した建築士・施工業者等の専門家による判断が必要です。本記事は一般的な売却戦略であり、工事の要否や安全性を判定するものではありません。