擁壁のある一棟アパート・ マンション売却前に 何を確認するか
資料と現況から売却条件を整える
「古い擁壁があるけれど、図面も検査の記録も見当たらない」。一棟アパート・マンションを売るとき、擁壁は建物とは別に確認したい対象です。いきなり造り替えを決める前に、誰の擁壁か、どんな手続きがされ、今はどのような状態かを整理しましょう。

擁壁の有無だけで、売却の可否や値下がり幅は決まりません。手続きの記録と現在の安全性を分け、必要な調査・対策・費用を具体化してから、現況売却と工事後の売却を比較します。
この記事の目次
01 / WHO OWNS THE WALL
擁壁の位置と
所有関係を確かめる
擁壁は、高低差のある土地で土砂の崩れを防ぐための壁です。コンクリートや石積みなど種類があり、劣化や不安定な構造による影響は、敷地内だけでなく隣地にも及ぶことがあります。[1]
最初に、売却する土地が擁壁の上側か下側か、擁壁が敷地内にあるのか隣地側なのかを配置図へ書き込みます。両側に高低差がある敷地では、擁壁ごとに番号を付けると説明が混ざりません。
境界と管理の約束を別々に見る
実務上の準備として、測量図・境界確認書・購入時の契約書・隣地との覚書を集め、土地の境界と擁壁の位置を照合します。見た目だけで「上の土地の所有者がすべて負担する」と決めず、擁壁の所有関係、築造経緯、管理・補修の合意を確認してください。
位置や境界の調査は土地家屋調査士等へ、所有権や費用負担に争いがある場合は弁護士へ相談します。隣地の擁壁でも、自分の建物への影響や調査・工事の協議先を整理することは必要です。
盛土規制法の規制区域内では、土地所有者等に、盛土等に伴う災害を防ぐため土地を常時安全な状態に維持する努力義務があります。区域指定前の盛土等も含む点に注意します。これは隣地との費用分担を一律に決める規定ではありません。[2]
02 / RECORDS AND REALITY
手続きの記録と
今の安全性は別
建物の確認済証や検査済証があるだけで、擁壁についても同じ手続きが済んでいるとは判断できません。対象が建物なのか擁壁なのか、どの場所・工事の書類なのかを確認します。
築造時の資料
配置図・断面図・構造図や計算書
築造時期と設計・施工の記録
許可と検査の資料
開発許可・宅地造成の許可・工作物確認など
該当する手続きと完了検査の記録
その後の変更
補修・補強・増し積みの履歴
当初の図面と現況の相違
例えば横浜市では、開発許可・宅地造成の許可・工作物確認による擁壁について、手続きの記録を確認できると案内しています。同時に、過去の手続きが適切でも、劣化や改変によって現在の安全性は別途確認が必要としています。[3]
書類がない理由から調べる
「紛失した」「当時の手続きが未確認」「記録が保存されていない」は別の状態です。書類が手元にないだけで違法と断定せず、地番、築造時期、過去の申請番号などを基に、所在地の自治体で調べられる範囲を確認します。資料の種類や保存状況は自治体により異なります。
高さだけでも判断できません。築造当時の法令・区域指定・工事内容と、これから行う工事に適用される制度を分け、許可・届出・確認申請等の要否を担当窓口へ確認しましょう。
03 / INSPECT THE WHOLE SITE
壁の表面だけで
安全と判断しない
ひび割れを埋めた跡があっても、原因や構造上の問題が解消したとは限りません。反対に、一枚の写真にひびが写っているだけで、補修方法や危険度を確定することもできません。擁壁や地盤を扱う専門家へ、既存資料と現地の状況を一緒に見てもらいます。[4]
- 1壁本体
ひび割れ・傾き・膨らみ
補修跡や増し積み - 2上側の地盤
沈下や亀裂の記録
建物との距離と土地の使い方 - 3下側と排水
水抜き穴・排水先
隣地や道路との関係
寸法・構造・境界を示す設計図ではありません。番号は専門家へ伝える観察箇所であり、自己診断で安全性を判定する項目ではありません。危険な場所へ近づいて確認しないでください。
売主が準備できるのは、安全な場所から撮影した全景と気になる箇所、過去と現在の写真、雨の後の状況、補修履歴などです。確認のために擁壁へ登ったり、穴を開けたり、自己判断で水抜き穴を塞いだりしないでください。
国土交通省は、擁壁の状態に応じて補修・再構築・補強などを検討するためのマニュアルを公表しています。工法は見た目や築年数だけで選ばず、構造・地盤・排水・周辺条件を踏まえて検討します。[5]
傾きや膨らみが進む、土砂が流れ出すなどの異変があれば、危険な場所へ近づかず、自治体の防災・宅地担当や専門家へ相談してください。切迫した危険では避難等を優先し、値段の比較を先に進めないことが大切です。
04 / PRICE FINANCE AND REBUILDING
価格と融資と建替えを
分けて確認する
以下は売却条件を整理するための一棟ラボの実務上の提案です。擁壁のある一棟物件に共通する値下がり率や、金融機関の統一審査基準を示すものではありません。
- PRICE売却価格
- 収益・立地に加え、必要な調査や対策、費用・期間の不確実さをどう見込むか。買主の提示額と、その前提を確認します。
- FINANCE買主の融資
- どの資料や調査結果が必要か、追加工事等の条件があるかを、買主を通じて利用予定の金融機関へ確認します。過去に融資を受けられた事実だけでは今回の審査は分かりません。
- REBUILDING将来の建替え
- 既存擁壁を利用できるか、建物の配置・基礎・排水にどんな対応が必要か。買主の計画に合わせ、建築士と自治体へ確認します。
建替えでは、所在地の建築基準条例などの確認が欠かせません。例えば横浜市建築基準条例第3条は、崖の近くに建築等をする場合の対策や例外、排水の措置を定めています。この条件を全国共通の距離や高さとして扱うことはできません。[6]
現在入居者がいること、建物が鉄筋コンクリート造であることだけで、擁壁の安全性や将来の建替え条件が確認済みになるわけではありません。アパートでもマンションでも、建物と擁壁の関係を調べることが出発点です。
05 / COMPARE BEFORE YOU REPAIR
工事費だけで
売り方を決めない
安全面で必要な対応を整理したうえで、現況で売る条件と工事後に売る案を比べます。最初から全面的な造り替えを発注するのではなく、調査の結果、必要な工法、工事の実現性を確認して進めましょう。
危険が疑われるときは
安全確保と専門家への相談を優先
所有関係・現況・必要な対策を整理
買主の条件を確認
調査結果を開示
対応する工事と負担者を合意
工事の実現性を確認
工法・許認可・費用・工期
入居者や隣地との調整
価格だけでなく追加費用と期間も比較
現況売却は、必要な安全対策や法的責任を省略する方法ではありません。Bの価格は工事をした場合の見込みであり、費用の回収や成約を保証するものではありません。
見積もりの範囲を揃える
本体工事に加えて、設計・調査・許認可、仮設、土の搬出、重機の搬入、隣地や道路の使用、建物・配管への対応が含まれるかを確認します。一棟物件では、工事中の入居者動線、駐車場利用、賃料収入への影響も整理したい項目です。
隣地の使用や工事への協力が必要なら、承諾や調整が済んでいるかも価格と同じくらい重要です。見積もりに含まれない項目と、追加費用が出る条件を明記し、工事後の売却見込み額から工事費・売却費用・待つ間の収支等を反映して比較します。工事費がそのまま売却価格へ上乗せされるとは限りません。
06 / PASS ON WHAT YOU KNOW
確認済みと未確認を
買主へ引き継ぐ
買主へは「問題ありません」と結論だけを伝えるより、確認した事実と資料、不足している情報を分けて渡します。既知の変状、過去の補修、行政からの通知・指導、隣地との協議や紛争があれば、内容と経緯を仲介担当者へ共有してください。
一つの擁壁に一つの記録
- 場所
- 配置図の番号と全景写真
- 確認済み
- 資料名・調査日・確認者・分かったこと
- 未確認
- 不足する資料と次の確認先
- 引渡し条件
- 誰がいつ調査・工事・費用を負担するか
口頭での見込みと、書面で合意した条件を混ぜない
現況売却と免責を混同しない
現況で引き渡すというだけで、契約不適合責任が当然になくなるわけではありません。民法第572条は、責任を負わない特約があっても、売主が知りながら告げなかった事実について責任を免れない旨を定めています。[7]
具体的な責任範囲は、当事者、契約内容、適用される法律等によって異なります。擁壁の調査を契約の前後どちらで行うか、想定外の結果が出たらどうするか、追加工事や融資の条件をどう扱うかまで、契約前に仲介担当者や必要に応じて弁護士と整理します。
07 / QUESTIONS
よくある疑問
検査済証が見つからなくても相談できますか
相談できます。まず「手元にない」と伝え、過去の許可・検査の記録を調べる方法を確認しましょう。書類がない理由や調査結果によって、買主が必要とする条件は変わります。
隣の土地の擁壁なら確認は不要ですか
不要とは限りません。物件との位置関係、変状の有無、所有・管理の関係、調査や対策の協議先を確認します。隣地の土地や擁壁へ無断で入ったり手を加えたりせず、調査方法から調整します。
石積みなら必ず造り替えが必要ですか
石積みという呼び方だけでは判断できません。形式・構造・現況等を確認します。国交省は空石積みや増し積み擁壁の被害を紹介していますが、個別物件の工法は専門家による調査に基づいて検討します。[1]
マンションならアパートより安心ですか
建物の呼び方や構造だけでは判断できません。擁壁の構造、地盤、建物との位置関係、排水等を確認します。この記事は建物全体を売買する一棟物件が対象で、区分所有マンションの管理組合による意思決定は扱っていません。
NEXT STEP
擁壁の資料を揃えて
売却条件を相談する
ユナイテッド・エステートが、擁壁の資料と把握している状況、希望する売却時期を伺います。全景写真と手元の図面からでも、売却検討に必要な確認事項を整理できます。
擁壁のある一棟物件の無料査定査定は擁壁の安全性診断や法的判断ではありません。必要な技術調査は専門家へ確認し、価格・融資・成約を保証するものではありません。
参考資料と確認日
- 国土交通省「宅地擁壁について」 — 擁壁の役割・形式・被害と関連資料。
- 国土交通省等「宅地造成、特定盛土等又は土石の堆積に伴う災害の防止に関する基本的な方針」 — 責任の所在の明確化。区域内の土地所有者等の努力義務と区域指定前の盛土等。
- 横浜市「建築・宅地に関する一般相談Q&A」 — 2-2・2-3。手続きの記録と現況の安全性の区別。自治体の案内例であり全国共通の窓口ではありません。
- 横浜市「崖地に関するQ&A」 — 危険性の確認、専門家への相談、維持管理について。
- 国土交通省「宅地擁壁の健全度判定・予防保全対策マニュアル」案内ページ — 健全度と現地状況に応じた対策を検討する資料の位置づけ。
- 横浜市「横浜市建築基準条例」 — 第3条。2026年5月改訂版の案内と現行例規を確認。所在地の条例・区域・計画による個別確認が必要です。
- e-Gov法令検索「民法」 — 第572条。責任を負わない特約と告げなかった事実。
2026年10月15日確認。制度・技術に関する説明は上記の一次情報に基づきます。売却準備と比較手順は一棟ラボの実務上の提案です。個別物件の安全性・適法性・責任・融資可否を判定する記事ではありません。