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一棟アパート・マンションを売った後雨漏りや設備故障は誰の負担になるのか

売却後の安心は契約前の記録から始まる

売却代金が入り、銀行への返済も終わった。ようやく肩の荷が下りた数週間後、買主から「最上階で雨漏りが見つかった」と連絡が来る。修理代の話をされても、すぐには返事ができない。

これは説明のための架空の場面です。ただ、一棟物件を持つ人には想像しやすいのではないでしょうか。自宅と違い、すべての部屋を毎日見ているわけではありません。管理会社に任せ、入居者から困ったという連絡もなければ、不具合に気づかないまま売却を迎えることもあります。

雨上がりの共同住宅の共用廊下で天井付近の状態を確認する点検者の生成イメージ
見えている状態と、記録に残る経緯を合わせて確認する。生成画像はイメージで、実在の物件・点検・取引を示すものではありません。

「知らなかった」「もう自分の建物ではない」。売主としてそう感じるのは自然です。しかし、その二つだけでは負担は決まりません。反対に、売った後に故障が見つかったからといって、修理代がすべて売主の負担になるわけでもありません。何を約束して引き渡し、その時点でどのような状態だったのか。そこへ戻って考える必要があります。

対象は中古の一棟アパート・マンションの売買です。以下は一般的な法制度と実務上の整理で、個別の責任を判定するものではありません。新築住宅の特別な保証制度は扱いません。

この記事の目次

01 / THE HANDOVER LINE

見つかった日だけでは
負担は決まらない

売買で問題になる「契約不適合」とは、引き渡された物件が、種類・品質・数量について契約の内容に合っていないことです。中古の建物に新品と同じ状態を求める制度ではありません。築年数、説明された状態、修繕の約束などを踏まえ、どのような品質の物件を引き渡す合意だったかを確認します。[1]

ここで分けたいのが、不具合が見つかった時期と、契約に合わない状態が存在した時期です。退去後に天井の染みが見つかったとしても、その日に初めて漏れたとは限りません。一方、引渡し時には契約に適合していた設備が、その後の使用や劣化で故障したのであれば、売主が当然に負担する話ではありません。

01 / WHEN IT WAS FOUND見つかった日から
引渡しの日へさかのぼる

説明用の模式図です。以下だけで責任の有無は決まりません。

引渡し前引渡し引渡し後

A 後から見つかった不具合

引渡し時に
すでに不適合が存在
退去後の室内で
雨漏りを発見

発見が引渡し後でも、売主の責任が問題になり得る

B 引渡し後に生じた不具合

引渡し時は
合意した品質に適合
その後の劣化等で
不具合が発生

売主が当然に負担するものではない

契約の内容 × 引渡し時の状態 × 証拠

責任の範囲・特約・通知期限も併せて確認する

共同住宅の雨漏りでも判断は分かれた

全日本不動産協会が掲載するRETIO研究員の解説には、対照的な二つの裁判例が紹介されています。2019年1月16日の東京高裁判決では、引渡し後に判明した雨漏りについて、それ以前から存在していたと認定され、売主の責任が認められました。2021年11月25日の東京地裁判決では、引渡し時の不具合を認める証拠がなく、経年劣化によるものとして請求が退けられています。[2]

いずれも改正前民法の瑕疵担保責任に関する事例です。現行法の結論としてそのまま当てはめず、引渡し時の状態と証拠を見るための参考にしています。

ここから持ち帰りたいのは、「古い建物なら売主に責任はない」という答えではありません。雨漏りの跡、工事の内容、入居者の申告などから、時間をさかのぼる必要があるということです。売主も買主も、写真一枚や築年数だけで結論を急ぐと、その後の話がこじれやすくなります。

知らなかったことと免責は別の問題

売主が不具合を知らなかったとしても、それだけで修補などの責任がなくなるわけではありません。民法上、契約不適合がある場合の追完請求と、売主の帰責事由が問題になる損害賠償は、要件が異なります。[1]逆に、知っていた事実を告げなかった場合には、免責特約があっても責任が残る問題が生じます。まず契約を読むべき理由はここにあります。

02 / WHAT WAS AGREED

現況渡しの一言では
約束が見えない

「古いので現況渡しです」。売買の話で出てくる言葉ですが、これだけで売主の責任が一切なくなると考えるのは早計です。売る前に改修をしないという意味なのか、特定の故障を買主が引き受けるという意味なのか。責任を免除する条項まで合意しているのか。言葉をほどいて確認します。

例えば、故障した共用灯を交換せず引き渡すと説明した場合を考えてみます。その共用灯を買主の負担で交換する合意と、説明されていない屋上の雨漏りまで買主が引き受ける合意は、同じではありません。「不具合あり」と書くだけでなく、場所・症状・調査の範囲と、何を誰の負担にするかを対応させる必要があります。

説明した事実と負担の合意を照合する

告知書に「雨漏りの履歴あり」と記載していても、契約で売主が補修を約束しているなら、その約束の確認が必要です。反対に買主が現状を引き受けるなら、承知した範囲と免責の対象を契約書案で確かめます。

契約不適合責任を負わない特約にも限界があります。民法572条は、売主が知りながら告げなかった事実などについて、免責の特約があっても責任を免れないと定めています。[1]「免責で売れるなら、わざわざ昔の話をしなくてもよい」という発想は、売却後の安心につながりません。

個人か法人かだけで決めない

特約の有効性は当事者の立場でも変わります。宅建業者が自ら売主となり、宅建業者ではない買主へ売る場合には、宅建業法40条による買主に不利な特約の制限があります。一般のオーナーが不動産会社に仲介を頼んだだけで、この規定が同じように適用されるわけではありません。[3]

消費者契約に当たるなら、消費者契約法による免責条項等の制限も確認します。ただし、個人であっても事業として、または事業のために契約する場合は、同法の「消費者」から除かれます。一棟の収益物件だからこそ、個人名義か法人名義かだけで一律に判断せず、取引の目的と実態まで専門家に伝えることが大切です。[4]

03 / THE REPAIR HISTORY

修理済みの一行に
何が抜けているか

所有中に一度雨漏りがあり、業者に直してもらった。その後は苦情も来ていない。オーナーの感覚では、もう終わった話かもしれません。けれども買主が知りたいのは、費用を払ったという事実だけではなく、どこを直し、何が確認できているかです。

屋上全体の防水を更新したのか、特定の箇所を部分補修したのか。原因を特定して工事をしたのか、まず水を止める応急処置だったのか。工事の請求書が残っていても、そこに「補修一式」としか書かれていなければ、この違いは分かりません。可能な範囲で施工会社の報告書や写真を取り寄せ、工事の中身を確かめます。

「再発の連絡を受けていない」と「再発していないことを点検で確認した」は、異なる情報です。管理会社からの報告を根拠にするなら、誰に、いつ、どの期間の記録を確認したかも残します。修理後の状態を説明するとき、確認していないところまで「完全に直っています」と広げないことです。

記録の具体化 / 架空の記載例

雨漏り修理済み

この一行を確認できた事実に分ける

発生
2024年9月 301号室の天井に水染みの申告
対応
同年10月 屋上の一部を補修
施工報告書と写真を添付
その後
管理会社の保管記録を2026年10月に確認
補修後の同じ症状の申告は記録されていない
未確認
入居中のため直近の室内点検は未実施
壁・天井内部の状態は確認できていない

事実整理の例であり、そのまま使える免責条項ではありません。実際の資料に合わせて記載し、契約上の扱いは別途合意します。

修理した過去の不具合を、どのような場合でも同じ範囲で説明しなければならない、と一律に言うことはできません。ただ、売主として紛争を減らす準備をするなら、修理したから履歴を消すのではなく、告知書の質問に正確に答え、履歴と現在の確認状況をセットで示す方が話を進めやすくなります。ここは法律上の結論と、実務上の備えを分けて考えたいところです。

開示したら必ず値下がりする、とも限りません。買主にとっては、原因も工事範囲も分からない「修理済み」より、未確認部分まで明らかな記録の方が追加調査を組み立てやすいからです。もちろん価格への影響は物件ごとに異なり、記録があれば減額されないという保証ではありません。

工事の資料を整理するには、修繕履歴の作り方と建物管理台帳も利用できます。

04 / OCCUPIED ROOMS

入居中で見られない
そのまま正常にしない

一棟売買で悩ましいのは、各室の給湯器やエアコンを、売主自身が普段使っていないことです。募集図面には設備として載っていても、交換時期や直近の動作確認が分からない。空室だけを見て、建物全体に「故障なし」と記入してしまうと、説明した範囲が実際の確認を超えてしまいます。

まず分けるのは、売買の対象となる設備かどうかです。オーナー所有の給湯器、入居者が持ち込んだエアコン、リース契約の機器では、引継ぎの確認事項が違います。そのうえで、部屋番号や共用部分ごとに、有無、把握している不具合、確認日、情報源を記録します。建物本体の責任と設備の修補について、契約上別の範囲や期限が定められている場合もあるため、設備表だけでなく条項まで読み合わせます。

入居中で確認できなければ、その理由を明記し、管理履歴や入居者からの申告でどこまで補えるかを相談します。追加の立入りが必要な場合は、管理会社を通じて入居者と日程・範囲を調整します。「未確認」と書くこと自体が免責になるわけではないので、未確認部分をどう扱うかの合意まで必要です。

建物調査にも確認できる範囲がある

建物状況調査は判断材料になりますが、「調査済みだから将来の故障も含めて問題なし」という証明ではありません。国土交通省も、建物状況調査は瑕疵の有無を判定するものではないことなど、その限界を明示しています。[5]対象にした住戸、立ち入れなかった箇所、調査方法を報告書で確認し、給湯器等の動作確認まで含まれるのかは調査者へ別に確かめましょう。

入居者への対応と売主への請求を分ける

売却後、給湯器が故障して入居者がお湯を使えなくなったとします。現在の賃貸人として必要な修繕に対応する問題と、その費用を売買契約に基づいて旧オーナーへ請求できるかは、別の関係です。民法606条の修繕義務も踏まえ、売主と買主の負担協議を理由に、入居者の生活や安全に必要な対応を止めないことが重要です。[1]

05 / THE DEADLINE

一年か三か月か
数字だけを覚えない

「契約不適合責任は一年」「中古なら三か月」。こうした説明は、何を起点に、何をする期限なのかが抜けると誤解を招きます。売買契約書にある日付と、民法の原則を分けて読みましょう。

種類・品質の契約不適合について、民法566条は原則として、買主が不適合を知った時から一年以内に売主へ通知することを求めています。引渡しから一年間、すべての故障を保証するという意味ではありません。また、引渡し時に売主が不適合を知っていた場合や、重大な過失によって知らなかった場合には、この通知期間の例外があります。[1]

一方、契約には「引渡しから一定期間内に通知された不適合に限る」といった特約が置かれることがあります。三か月などの数字が出てくるのは、そうした約定の確認場面です。全国共通の法定期間ではなく、対象となる不具合、起算日、通知先、通知方法、特約の有効性を一緒に見ます。

通知と、具体的な権利の行使に関わる消滅時効も同じではありません。通知さえすればいつまでも請求できるわけではなく、民法166条などの時効の検討が別途必要です。また、商人間の売買では商法526条の検査・通知の規律が問題になるため、法人間などの取引で民法の一年だけを前提にするのは避けます。[1][6]

契約前に担当者へ聞くこと

「この契約では、何について、いつからいつまでに、誰へ何を伝える必要がありますか」。この形で尋ねると、条項と日程を具体的に確認できます。すでに請求が届いている場合は、期限が過ぎたと思っても自己判断で放置せず、通知内容と受領日を保存して確認します。

06 / THE FIRST RESPONSE

請求が届いたら
先に揃えたいもの

冒頭の雨漏りの連絡に戻ります。「全額払います」と約束するにも、「免責なので関係ありません」と返すにも、まだ情報が足りません。最初にすべきなのは、連絡を受け取ったことを伝え、発見場所、日時、写真、調査結果、現在の被害状況を確認することです。

漏電のおそれや漏水の拡大など緊急性があるなら、現所有者・管理会社・専門業者による安全確保や応急処置を優先します。その際も、安全にできる範囲で作業前後の写真、撤去部分の状態、実施した処置と費用を残してもらいます。責任の結論を出すために危険な状態を保存しておく、という意味ではありません。

次に、売買契約書、告知書、設備表、引渡しの確認記録、所有中の管理・工事資料を揃え、仲介担当者へ共有します。確認したいのは、請求の対象が契約のどこに対応するか、引渡し時の状態を示す資料があるか、通知等の要件を満たすかです。原因の評価は建築の専門家、責任や交渉の方針は必要に応じて弁護士へ相談します。

見積金額と売主の負担額は同じではない

例えば雨漏りの連絡と一緒に屋上全面改修の見積書が届いても、その金額がそのまま売主の支払額になるとは限りません。問題の原因を直すための工事か、別の劣化部分や性能向上まで含む工事かを分けて確認します。入居者への補償や家賃損失を求められた場合も、発生の事実、原因との関係、契約と法的な根拠を確かめる必要があります。

民法は修補等の追完、代金減額、損害賠償、解除を定めていますが、要件はそれぞれ異なります。例えば代金減額には原則として追完の催告が必要で、例外もあります。損害賠償や解除も、不具合があるという一点だけで当然に認められるものではありません。[1]争いになっている場面で、金額だけを先に折半するより、何の解決として支払うのかを確認した方が、その後に残る問題を把握できます。

02 / ONE DEFECT ONE RECORD一つの不具合を
引渡しまで追いかける

例:最上階の雨漏りを補修した一棟物件
事実の確認と負担の合意をつなぐ順序

  1. 起きたことを集める

    部屋・場所・発生日・再発・応急処置

    入居者の連絡 / 管理報告 / 当時の写真
  2. 直したことと不明点を分ける

    工事箇所・原因調査・施工日・確認できない部分

    見積書 / 工事報告 / 請求書 / 保証条件
  3. 契約上の扱いを決める

    追加調査・補修の担当・費用負担・責任の対象

    告知書と設備表を契約書案に照合
  4. 引渡し前に差分を確認する

    新しい申告や再発はないか・工事は終わったか

    変更点の共有 / 合意の記録 / 資料の引継ぎ
「伝えた」だけで終えず
何を引き受ける合意かまで残す

売却前なら、同じ手順を今から始められます。一棟すべての不具合を見抜くのは難しくても、知っていること、資料で確かめたこと、まだ分からないことは分けられる。その境目を曖昧にせず買主に渡すことが、価格交渉とは別の、売主の大事な準備です。

手元に代金が残るだけでなく、売った後の心配にも区切りをつけたい。そのためには、免責という一言を探す前に、一つの不具合について誰が何を引き受けるのかを、契約の言葉にしておく。記録は、その合意を支えるためにあります。

BEFORE THE CONTRACT

不具合の情報も含めて
売却条件を考える

過去の修繕、現在の不具合、確認できていない箇所を整理し、売却に向けてどの資料や条件を揃えるか相談できます。すでに紛争となっている請求や責任判断については、弁護士への相談も検討してください。

一棟の売却条件を相談する

参考資料と記事の位置づけ

2026年10月22日確認。法令は現行の規定を、裁判例は適用法と個別の事実関係を区別して参照しています。本文の記録方法・確認順序は、これらを踏まえた編集上の実務提案です。

  1. e-Gov法令検索 民法
    166条、415条、541・542条、562〜564条、566条、572条、606条。契約不適合の救済、通知・時効、免責の限界、賃貸人の修繕義務。条文はe-Gov法令APIでも照合。
  2. 全日本不動産協会 月刊不動産 雨漏りと売主の契約不適合(瑕疵)担保責任に関するトラブル
    2023年3月14日。RETIO研究員による解説。東京高裁2019年1月16日、東京地裁2021年11月25日の紹介部分を参照。判決全文を直接引用したものではなく、旧法下の事例を現行法の一律の結論として使用していません。
  3. e-Gov法令検索 宅地建物取引業法
    40条、78条2項。自ら売主となる宅建業者の特約制限と、宅建業者相互間の取引における適用除外。
  4. e-Gov法令検索 消費者契約法 / 消費者庁 逐条解説 第1章(PDF)
    2条の当事者の定義、8条・8条の2・10条等の不当条項の規律を確認。投資目的という言葉だけで適用の有無を断定していません。
  5. 国土交通省 既存住宅流通について
    建物状況調査の活用と、調査の限界に関する標準媒介契約約款の説明を参照。
  6. e-Gov法令検索 商法
    526条。商人間売買における買主の検査・通知。適用の有無と契約の修正条項は個別に確認が必要。

個別の責任・特約の有効性・期限は、契約日、当事者、合意内容、発生経緯等で異なります。記事だけで支払いや請求拒絶を決めず、関係資料を揃えて専門家へ確認してください。